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2009年8月 2日 (日)

レーシック訴訟について思うこと

先日、東京の格安レーシック手術を行う眼科医が訴えられました。

どうやら話を聞いていると、術後の重度感染症で失明やトラブルが相次いだとのこと。

歯科でいうとインプラントもそうなのですが、レーシックは保険適応外の高額自費診療になります。

実を言うと私達夫婦も「ど近眼」だったので大学病院をやめて開業するまでの間にレーシック手術を受けました。

現在はかなり価格崩壊しているようなので相場はわかりませんが、当時大学病院などの大きな総合病院での手術が40万くらい、レーシック専門開業医で25~30万くらいだったでしょうか。私達もひとり25万ほど手術料金がかかりました。

私達夫婦が施術を受けた病院は、施術した有名芸能人を広告等のように使い有名芸能人だけは院長自ら手術をして一緒に写真をとり待合室にペタペタ貼っているという悪趣味が目立ちました。院内にスタッフはたくさんいるのですがどのスタッフもやる気を感じられず愛想が悪い、手術を担当する医師も感じが悪く…。「きっと有名芸能人だけチヤホヤしてるんだろうな」という印象を受けました。私も一応医療関係者なので「自費オンリーにするのなら院長の宣伝なんかに力をいれずにもっと高級路線で接遇などを強化したほうが…」と違和感を感じました。

手術後の経過は主人はすぐ見えるようになり痛みも少なく経過が良かったのですが、私は少し術後感染を起こししばらく目が痛くて一年治療に通いました。なんとか痛みもひき目も見えるようにはなりましたが、急に視力が上がるので本を読んだりPCを触っていると目の疲れがひどくなりました。術後の感染症や後遺症についての説明はそういえばありませんでした。

私の周りのもレーシックを受けた方が大勢いるのですが、半数が「特に問題はなかった」方と半数は「トラブルがあった」方にわかれます。トラブルで多いのがやはり術後感染による疼痛。ひどいケースは術前より見えなくなった、再手術を要求された、再手術後も見えが悪い…などなど。トラブルケースの話を聞くと「わぁ、今だったらレーシックできない」と思います。正確に統計を取っているわけではないので無責任なことはいえませんが、結構何かしらトラブルは多いみたいです。(今の私の受持ちの患者様も先日大阪でレーシック手術を受けられてから調子が悪いみたいです)

なぜ歯科でいう「インプラント」や眼科の「レーシック」などが保険外診療で高額になるかと言うと、まだ施術が確立されていないので歯科医師・医師が高額な勉強会で知識を得ないといけないこと、機器の設備投資に莫大なお金がかかるためです。要するに勉強会費用という「技術料」と特殊な医療機器の返済にあてるために高い設定になるわけです。莫大な設備投資をしているからそれを回収しないといけないんです。だからおのずと高くなります。

さて、その莫大な費用をかけて購入した医療機器ですが、使用方法が非常に繊細なものが多いです。ですので使用後の滅菌などには非常に気を使います。インプラントの器具も非常に細かなものが多かったり滅菌が煩雑です。ですが直接粘膜に使用するものですからきちんと滅菌をしておかないとそれこそ2次感染を起こして治癒が悪くなるので滅菌管理は絶対に怠ってはいけません。自分の医院の「トラブル」の元をつくっているようなものですから、当院ではかなりスタッフにもうるさく滅菌管理については指導を行っています。

この器具の滅菌管理にも実は非常にコストや手間がかかります。

格安インプラントや格安レーシックを謳っている医院はどこを手を抜くのか、というとおそらくこの後者でしょう。かかる勉強会費用と器具の設備投資は同額ですから、「格安」にしようとするとどこかで手を抜かないことには売上が上がりません。おそらくこの滅菌行程や術後フォローを手抜きして患者の回転数を良くし薄利多売で売っているんだろうなと思います。ですので、私達医療人としては「格安」はある意味「危険」と感じるわけですからできるだけ正規料金や大規模病院で手術を受けようかなとなるわけです。まだ比較的リスクが少なそうですから…。

話が長くなりましたが、この訴えられた眼科医は「超格安レーシック」がウリらしく、施術料金は10万くらいだったように思います。(通常の1/3くらい)院内の様子が公開されていましたがお世辞にも「自費診療を行う医院」にふさわしくない古さと汚さを感じました。それもそのはず、その医院の医師が自ら「滅菌はしていませんでした」と公言。滅菌をしていないイコール前の患者からの使いまわしの器具をずっと使用していたという意味です。

考えただけで怖ろしいですよね。誰か分からない人が受けた手術器械を使いまわしだなんて医療人としては絶対にしてはいけない事を平気で行っていたわけです。それで2次感染が出ないほうが不思議です。

歯科で言うと「前の方に使ったタービン(歯を削る機械)をそのまま使いまわしている」のと同じで(残念ながら歯科医院はいまだに「清潔不潔」の概念がなく使いまわし医院がほとんど。当院は全ての器具を滅菌して提供しています)それが「歯科からの感染症が多い」と言われる所以です。歯科も「格安インプラント」を謳っているところが多いのでおそらく滅菌管理をしてない所が多いだろうと思いますからきっちりして欲しいと思います。

おおむねにして「医師・歯科医師」は「清潔不潔」の概念が欠如している事が多いです。オペ場ではできても外来や病棟では清潔操作ができないことがざらです。なぜなら看護師や歯科衛生士のようにうるさい教員に徹底的に清潔不潔から叩き込まれていないからです。病院のように医者は医局、看護師は看護部と指示系統が違い、看護部がきちんと医師に対して「不潔です」と物申せるところは別ですが、「医師・歯科医師」が頂点に立つ「開業医」というところは、よほど「医師・歯科医師」が「清潔不潔」の概念がきっちりしていないとおのずと下につく看護師や歯科衛生士も「気にはなるけど先生がいいって言うならメンドクサイし手を抜こう」となってしまいます。

「滅菌」「清潔不潔」を手を抜いて患者様に迷惑をおかけするようになると、結局は自院の評判を下げることになります。

患者様には絶対にご迷惑をおかけしてはいけませんし、自院を守るためにも不可欠なことだと思います。

目先の利益よりも、患者様を大切にし自院のポリシーや医療としての最低限の事は守るべきであろうと、レーシック訴訟の原告の涙と医師側の不誠意さをみて感じました。

同じ医療人として、その医師の資質を疑います。

今後このような医院がもっと摘発され、きちんとしている医院がもっと増えればいいと思います。

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