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2010年1月21日 (木)

「使いまわし」の謎と報道の間違い

愛知の歯科医院の先生がインプラントの使い回しが発覚して自殺未遂をされて刑事告発されたそうで。

たまたま朝主人がテレビをつけていてその報道をしていました。

一応、歯科のプロからみて「?」と思う点が多々。

■一つ目の疑問:なぜ使い回しが出来る?

「インプラント」というのは各社多数発売されています。

例えば当院は「アストラ」という会社を導入しているのですが、「アストラ」のインプラントのインプランターでは(インプラントを埋入するために顎に穴を開ける機械)アストラの販売しているインプラントでないと埋入できません。「アストラ」は「アストラ」独自のインプラントなので他社のインプラントには使用できません。ですので、例えば当院に「ブローネマルク」という会社のインプラントをされている方が「インプラントが外れたから直して欲しい・着けて欲しい」と言われても「ブローネマルク」のインプラントキットがないので出来ません。ですので当院の場合、当院以外でインプラントをされた患者様に対しては申し訳ないのですが「インプラントをされた先生のところで治してもらって下さい」とお断りしています。他院で触ったインプラントをこちらで触るとトラブルの元になりますしね。

かなりの会社でインプラントの器具器材は独自の製品が発売されていますから、インプラントの土台部分が外れたからと言って同じ会社のものとは限りません。ですので自院であるインプラントキッドを使ってどれもこれも「再利用」できるという確率はかなり低いと思うのですが…。(「アストラ」や「ブローネマルク」はインプラントではメジャーなのでお持ちの先生も多いでしょうが…)

それにインプラント本体自体がスポッと外れるというケースというのもあまりないので、なぜ「使いまわし」が出来るくらい抜けたものを「在庫」できていたのかも謎です。

ちなみに、当院では使いまわしはありませんのでご安心下さい。

■二つ目の疑問:「インプラント」に対する報道の間違い

困りますね…中途半端な知識でメディアに報道されては。生放送で報道するならきちんと勉強した上で放送するか、それが無理ならきちんと医療監修をしたVTRで流さないとあんな事を言われるとハッキリ言って現場としては迷惑です。キャスターの方が説明されていた「インプラント」の施術の説明は間違ってました。VTRでは明らかに「1回法」というインプラントの手術方法をCGを使って説明していたのに、生放送で発泡スチロールで作ったと思われる大型模型を使って説明する時は「2回法」。説明するならどちらかに統一しないと全く違う術式です。

■三つ目の疑問:抜けたインプラントを消毒して使っていた「消毒方法」

キャスターの人が「抜けたインプラントを家庭用洗剤で洗って沸騰した湯で消毒していた」と言ってましたが…。今時「煮沸消毒(熱湯した湯で器具を消毒すること)」をしている医院はほとんどありえません。まずインプラントをするような先生ならインプラントの器具を滅菌するのに煮沸では出来ませんのでオートクレーブ(器具を滅菌する器械)を必ずもっています。まぁインプラントの器具を滅菌せずにアルコール綿で拭くだけの先生もいないことはないですが…。これがホントならかなり怖いです。

■4つ目の疑問:どこかの「勤務医」の証言

VTRの中である勤務医に勤める女医が顔と音声を変えて「自分が勤めていた医院では院長に保険外診療をもっとしろといわれました」的な発言をしていました。同じ歯科で働く人間としてあんな形で顔を隠して「証言」するのはどうかなぁ…と思います。自分がやましくないと思う発言をしているのなら顔を出して堂々と発言すべきです。勤務医と自院を経営する立場の歯科医師は全く違います。勤務医だから自分で開業資金を背負っていないので「返済する責任・人を雇用して維持する責任」がないのであんな軽率な発言が出来るんだろうなと感じます。同じ歯科関係者として恥ずかしいです。

■5つ目の疑問:インプラントは「儲かる」というキャスターの発言

ハッキリ言います。インプラントはリスクが高くて器材材料代も高いので医院サイドから言うと「ハイリスクローリターン」です。当院でも患者様から「どうしても」というケースしかしませんし積極的にこちらサイドから「やりましょう」とは言いません。インプラントを施術する場合もカウンセリングを何度も行って患者様から納得してもらい同意書を頂いて行います。たまたま放送でインタビューに答えていた東京の歯科医院(ちゃんと医院名を出して先生は顔出ししていました)は「1本あたり50万くらい」と発言されていましたが、キャスターやコメンテーターの方は「高い」「儲かるんだろうな」と言ってました。

インプラントの技術を習得するには何十万・何百万単位で研修会に出ないといけないですし、インプラントキットをそろえるだけで百万以上コストがかかります。それを回収しないといけません。当院も導入しているのですがインプラントを埋入する際に使用するCTを解析するソフトも非常に高額です。材料も1本当たりかなりコストもかかります。正直なところ上がりはあまりありません。東京ならテナント料も高いので1本当たり50万設定にしないと採算が取れないでしょうね。東京ならこの先生の医院はまだ良心的な価格帯だと思います。

「インプラントは儲かる」なんて誤解を招く報道は慎んでもらいたいものです。歯科医師はそれなりにリスクや技術を習得するためのコストを背負ってやっているんです。

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誤解を招きたくないのであえて書きますが、報道されている歯科医院を擁護するつもりは全くありません。ハッキリ言ってあのような報道をされるのは口腔外科を扱う医院としては迷惑極まりないものです。

摘発された歯科医院は、以前に保険の不正請求をして「保険医停止」の処分をうけているそうです。そこで働いているスタッフも顔を隠してインタビューに答えていましたが、おそらく今回のインプラント使い回しも院内スタッフからの「内部告発」の可能性が非常に高いと思われます。きっと保険の不正請求もスタッフによる「内部告発」でしょうから、この先生はスタッフを大事にしてなかったんだろうなと思うのと、日常的に「不適当な」診療をしていたんだろうなと推測されます。

どちらにしても歯科医師会が今回の摘発の件でからんでいるようなので、歯科医師会の雑誌に報道されない真実が記載されてくるでしょう。

個人的に思うのは、やはり治療や滅菌はガチンコできちんとしておかないと後で自分の首を絞めるということと、スタッフを大事に育てて対立のないようにきちんと院内の風通しをよくしておくこと、患者様との信頼関係をきちんと確立してカウンセリングを行う事は大事だと痛感しました。

あと報道と言うのは誤解を招く事を平気で放送するんだなというので一種の恐怖を感じました。

今回の騒動の当院夫婦としての一感想として。

基本的に休みの日か週末しか更新しませんが、少し報道に対して意見がありましたのでイレギュラーで更新しました。

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