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2011年2月19日 (土)

仕事・コラム復帰

みなさん、こんにちは。

2月上旬は私の診察が休診続きでご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした。この場をお借りして深くお詫び申し上げます。そしてご心配いただいたみなさまには心よりお礼申し上げます。

実父がガンターミナルで看病をしてお見送りをしてきました。今まで病棟などで白衣を着た立場で患者様のターミナルと向き合うことはあったのですが、患者家族としてターミナルを看るのは初めての経験でした。

父は再婚したので10数年会っていませんでした。このたび父がターミナルということで親戚が私を探し出して連絡がきたのですが、胃がんステージ4で全身転移。主治医の先生のムンテラ(病状説明)で画像を見せてもらうともうメタメタでした(医療用語で全身にガンが転移している状態のことを「メタ」と言います)

ムンテラの際に主治医に私は「ホスピスで緩和医療にしたほうが…」と聞いてみたところ、主治医の先生も「ご家族の方(今の父の奥さん)に勧めたんですがホスピス拒否でケモ(抗がん剤)続行を希望されてるんです」とのこと。途中参加の私が治療方針に口出しをすることはためらったのですが、当時の父の状況からするとケモをすることによって余計に苦しむのは目に見えています。ですが、医師も危険性を十分説明をしたそうなのですが最後までケモするとの意向だとのことでした。

父の余命は主治医の先生の見立てでは週単位。そんな弱った体にケモは…。せめて苦痛だけでも取り除いて楽に逝かせてあげたい。それが私の希望でした。

連絡を受けてからずっと父の看病につきました。ガン末期で余命いくばくかになってくると「身の置き所のない」苦痛に襲われます。それを緩和するために最近では緩和医療・緩和ケアが主流になってきています。ですが、父の奥さんは緩和医療をすることによって父が意識がなくなってしまうのがイヤのようで鎮静には反対のようでした。

腹水貯留による苦しさ、誤嚥性肺炎による高熱と痰。疼痛緩和のためにモルヒネの副作用によるイレウス(腸閉塞)やせん妄と不穏。見るに耐えれない状況でした。

差し出がましいことですが父の奥さんが席をはずしている際に、私の判断で主治医に相談して鎮静処置を行ってもらいました。「父をせめて苦しまずに逝かせてあげてください」と。

主治医の先生は「よくご存知と思いますがセデ(鎮静)をすると意識がなくなりこれから先はお父さんはしゃべったりできなくなりますし、反応がなくなりますがいいですか」と確認されました。私はもう父の苦しむ姿を見たくなかったのと無理な延命は家族のエゴで本人は辛いだけだと思い、主治医の先生にその旨を伝えました。そして最期の時は心臓マッサージなどの処置は一切せずに静かに逝かせてほしいことも告げました。

私の意志を尊重して、主治医はその日から鎮静処置を行い一切の延命処置を終了しました。そして私の希望からSpO2(血中の酸素濃度を測る機械)のみでモニターなどの大げさな器械はなしで頻回に看護師さんに巡回してバイタルを計ってもらうことになりました。

衰弱していく父。鎮静のおかげで不穏症状やせん妄による見るに耐えない姿はなくなり、うつらうつら状態になりました。主治医から「今日から輸液を絞ります(体に水分を入れるのを控えますということ。死期が早まるという意味です)」と告げられました。日に日に点滴のルートも少なくなり、嫌がっていたマーゲンチューブ(胃の管)もなくなりました。

何度かの急変の後、2月11日10時18分、吹雪く中、父は今の奥さんと娘である私、父の兄に見送られて静かに眠るように息を引き取りました。

享年63歳。若すぎる死でした。

その場に居合わせた看護師さん、主治医、主治医のネーベン(研修医)も皆さん臨終の際にベットサイドで泣いてくださって父は本当に幸せに逝けたと思います。

最期は看護師さんと一緒にエンゼルケアに入らせてもらいました。

エンゼルケアは普通は一般の方の場合は体を拭くくらいまでしか入れてもらえないことが多いのですが、私が医療従事者ということで一緒に最後までお世話させてもらえました。

これが最後の親孝行と思い、丁寧に清拭しました。

ガンと戦うということ、ガンと共存するということ。どちらが正しいのか私にはわかりません。

ただ、もし私がガンになったら残された時間を戦いに使うのではなく家族と大事に使って緩和医療を施してもらいたいと思います。抗がん剤治療(ケモ)についての私見はまた後日述べさせてもらいますが、ケモはあくまでも「残された時間を少し増やしてその間を有効に使うため」のものでほとんどは根治には繋がらないことが多いです。

今回の父の看護および死によって学ぶべきところがたくさんありました。この経験を今後の診察や患者様への対応に生かしていきたいと思います。

また、落ち着いたらいろいろと考えていることをまとめていきたいと思います。まだ書けるだけの精神的余裕がないので…。

上記理由から先週は外来・コラムをお休みさせていただきましたが、再開いたしますのでお付き合いください。

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