謎の8歳児来訪(後編)
とりあえず、診察を任された私。
「ダルダルさん、では顎が閉まらないということなので顎の関節の具合を確認するのに最初にレントゲンを撮りますので診察室へお入りください」と付き添いのバニラさんに通訳してもらって待合室から誘導。
うち、通路狭いんです。頭大丈夫かなぁ。
あ、…なんとか通路は通れました。よかった。
が、レントゲン室でトラブル発生!
私:「こちらに頭を乗せてくださいと通訳してもらっていいですか」
……って
頭大きすぎてレントゲンに入らへんやん!!!
私のアシスタントについていた衛生士の久保が「いくみさん、器械に頭入らないみたいです。どうしましょう」と不安げに聞いてきます。
私:「あ、ダルダルさん。レントゲンは…いいので直接お口の中を診ましょうね~。久保さん通訳してもらって診察台に誘導お願いします」と苦しい言い逃れ(苦笑)
久保に誘導してもらっている間にカウンセリングルームに籠っていた西松先生と主人に「パノラマ(レントゲンのこと)撮れないよ~。ゴメン、私じゃ無理!診察おねがい」と変わってもらうことにしました。
主人:「もー、西松先生と今は症例検証してたのに。新人じゃないんだからさぁ、ある程度診断つけてからまわしてよ」
西松先生:「まぁ、真砂っち、そういわずに。一緒に診ようや」
ということで、西松先生と主人にカルテを渡してバトンタッチ。カウンセリングルームから二人が出てきました。
西松先生&主人:「ダルダルさんですか。初めましてこんにち…は」
二人とも絶句(笑)
主人(小声で):「西松先生、先に診察お願いします」
西松先生(小声で):「なぁ、あの人、頭が大きすぎてヘッドレスト(診察台の枕のところ)に乗ってないやん。とりあえず先に俺が診るから、真砂っちも診てよな」
と密談成立。
西松先生:「あ…、こんにちは。口が閉まらないんですね。あと歯がお痛みがあると聞いたので、みみみ診ますね~」
私:「あの…西松先生、カルテに記載しますのでご診断を…」
西松先生:「えーと、開口障害(口が閉まらない)とあと咬合面(噛む面)のランパントカリエス(全体的に歯が虫歯になること)かなぁ…。ダルダルさん、今おいくつですか?」
ダルダルさん:「……」
付き添いのバニラさん:「あ、先生、すみません。ダルダルは日本語がしゃべれないんで私が通訳します。ダルダルは8歳なんですよ」
西松先生:「え?じゃあ、これは乳歯なんですね」
バニラさん:「ええ、そうだと思いますが」
西松先生:「珍しい症例やから真砂っちも診てよ」
主人:「はい」(西松先生は主人の指導医です。指導医の命令は絶対です)
診察する主人。なぜか西松先生カメラ目線(笑)
主人:「先生、抜歯適応だと思うんですが…診断どうですか?」
西松先生:「そやな、抜歯やな。抜歯準備。鉗子(歯を抜く器械)用意して~」
西松先生:「じゃあ、ダルダルさん、乳歯が残ってると後から生えてくる永久歯が変なところから生えてきますから乳歯を抜きますからね~、って通訳してください」
バニラさん:「ダルダル、○▽◆♪×…(ダルダル、今から歯を抜くから頑張って、だと思います)」
ダルダルさん、パニック!
やっぱり子供だから抜歯はこわいのね。
そして西松先生もパニック。人間ではないと思われる方の抜歯は初めてなのでどうやっても固くて抜けません。
西松先生:「真砂っち、ちょっと替わってみて」
主人:「はい」(指導医の命令は絶対です)
主人に代わっても固すぎて抜けませんでした。大学病院のベテラン口腔外科医2人にして抜けない歯があるとは!口腔外科学会への「症例」モノですね。さしずめ症例報告のタイトルは「地球人以外の8歳児乳歯抜歯術適応について」でしょうか(笑)
西松先生:「抜けませんね。まぁ乳歯ですから自然に生えかわりを待ちましょう。顎が閉まらないのは先天性(生まれつき)だと思われますね。虫歯も乳歯ですけどそのうち抜けると思うので永久歯を虫歯にしないでください。じゃあ、衛生士さんの久保さん、あと歯磨き指導よろしくネ~」
…って、逃げるのかい!!!(笑)
というわけで、衛生士の久保がブラッシング指導。
久保:「噛む面が虫歯なのでこうやって歯ブラシを当てましょう」とバニラさんに通訳してもらって指導開始。
ダルダルさん:「……」(無言で歯ブラシを動かしてます)
久保:「上手に磨けてますね!」(とバニラさんに通訳してもらってます)
ダルダルさん:「……」(まんざらでもなさそうな表情)
久保:「先生、ブラッシング終わりました」
西松先生:「真砂っち、とりあえず言葉が通じない人には『ボディランゲージ』でコミュニケーションや!!!!」
で、なぜか西松先生、ダルダルさんと熱い握手を交わして診察終了。
ダルダルさんは保険証がないので自費診療です。お会計を済ませてまた定期検診のご予約を取られました。
淡々と会計と次回予約をする歯科助手スタッフたち。
恐るべし!
若い子って怖いもの知らずでいいですね~(笑)
最後にダルダルさんのご希望で歯科医院の様子を写真に撮りたいとのことなので記念撮影。
まさご歯科オールスターズです。
基本的に当院は人間の方のみの診察となっております。人間以外の方の診察に関しましては犬・猫の場合は田辺ペットクリニック様をご紹介致しますが、それ以外の生物の方に関しましては要相談となりますのでご了承ください。
なお、ダルダルさんには撮影許可を頂き診察風景を掲載させていただきました。ダルダルさんご自身の歯科診察体験は日本語に訳してコチラに掲載されてありますのでよろしければ合わせてご覧になれば当日の様子がよくお分かりになるかと思います。
※このお話はフィクションです。
後日談
診察終了後、西松先生と主人が「あれ、中の人、女の人だよな。大変やな」とつぶやいておりました(笑)
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