私も「難病女子」。医療者から見た「難病女子」について。
巷では「難病女子」たるエッセイ集が15万部のヒットとのことで。
作者は「筋炎」(こちらも膠原病の一種)。
本書内容は臨検入院(病名を確定するために各種検査をする入院のこと)からステロイドによる治療、ステロイドで免疫抑制中のため臀部の蜂窩織炎を併発し(病名は書かれてないですが「おしり」に炎症を起こしたとあるので、症状からおそらくこの病名だと思われます)、医療者不信から自己退院するまでの経緯が書かれてます。
私もSLEという膠原病を患う、著者風に書くと「難病女子」。
でも、一応白衣を着る職業をしているので、「難病女子」のエッセイを読んでいて一般の方からは絶賛されていますが「患者サイドとして言いたいことの気持ち」と「医療サイドとして言いたいことの気持ち」と両方分かってしまうんで一概に手放しで絶賛というのではなく「なんともかんとも」という違和感を持ったというのが正直な感想。
膠原病特有の何とも言えない倦怠感や体のだるさ、難病でなかなか病名もつかず医療難民となり宙ぶらりんで検査・検査のみの入院のつらさや、数値だけで病状を判断されてしまい体のしんどさを理解してもらえないもどかしさ、ステロイドの副作用によるであろう「鬱」症状もよく書かれてます。これらは「患者目線」からみてよく表現できていると思います。
ただこちらのエッセイでは「医者は患者のことを分かってない」的な医療批判をされてます。これは日々現場で疲労困憊で治療に当たっている医療者が「いらぬ誤解」をされそうなので医療現場に身を置く人間から一言。
医師は「その患者」さんだけでなく多くの入院外来患者を抱えていますからターミナルで危ない(末期で死にそう)患者ならともかく、慢性疾患の患者の場合は「その人のみ」を気にかけて診れるだけのキャパは正直「ない」のが日本の医療の現状。
たぶん、この作者のタイプのような患者は「主治医や病棟ナースから嫌われるタイプの患者だろうなぁ」と読んで思いました。医療サイドからみると典型的な「嫌われる医療依存系患者」の見本のような言動が要所要所に目につきました。「医療者も人間、ブッタやキリストではないんだし慈善事業をしているわけではないんだよ」と少し感じました。
「私は難病。だから特別扱いして」という気持ちは私自身も難病持ちなんで痛いほどわかるんですけどね。でも、「患者に感情移入してはいけない」という「医療」の大前提もあるので、医療者は患者とは特定の関係にならないよう一線を引くように、と教育されています。
あと、難病だと「特定疾患」や「身体障害者」に認定されるんですが(医療費の自己負担軽減や高速道路半額などの恩恵があります)あくまでもこの認定は「期間限定」。病状が安定したり軽減したら認定は解除されます。もちろん、医師による診断が必要。
この著者は「特定疾患」と「身障」を認定してもらっているうえにさらに「介護認定」も取りたかったようですが医師の診断では「介護認定に関しては必要なし」だったことに憤慨されている模様です。が、厳しいようですが医療現場から言うとそれくらいの症状で「介護認定」を出していたら日本の介護システムはパンクしてしまいます。むしろこの症状で「身障2級」が取得できたのは主治医のおかげで奇跡に近いです。普通は取れないです。主治医に感謝すべきであってクレームを言うのは筋違いです。
おそらくこの病状なら「特定疾患」も一年で更新不可になってしまうでしょうね。身障は次の更新で100%アウトです。この著者は著書で主治医やケアマネに「医療福祉に頼ってばかりじゃだめだと言われた。でも(以下愚痴が続く)~」と書いてありますが、まさに主治医とケアマネが言っていることが残念ながら正しいです。
…と、この本を批判ばかりしているようですね。決してそうではないんですが、私はこちらの著書の方よりも重症です。ハッキリ言ってしまうと著書の方は膠原病でもまだ症状が全然軽くステロイドも少ない方です。もっと重症で福祉の助けを借りずに自力でがんばっている方が大勢いらっしゃいます。
私も必要最低限の医療福祉しか受けていませんし、「病気を受け入れて極力普通の生活を心がける」ようにしています。免疫抑制中ですが「バイキンバイオハザード」な医療現場で体が許す限り働いています。
膠原病は「一生治らない病気」です。なのでうまく病気とつきあわないといけません。「病気依存」をしてしまうと社会復帰はできません。
「病気に逃げて引きこもりたくなる」気持ちもわかります。でも、免疫疾患はそういった「病気に逃げてしまう」と余計に悪くなります。著者の方に激励として私は「もっと前向きに、医療福祉に頼らず病気と共存して自立して生活する人生設計をしてください」と声をかけてあげたいと思います。
私がSLEと病名確定するまでの臨検入院中に「心理系医療大学」の3年に編入して「臨床心理学」を学び心理士の資格を取ったのもこの著者のように「患者サイド」と「医療サイド」の温度差を身をもって体験したからで「患者の立場であり医療者の立場としてどのように立ち居振る舞いをすれば最善か」というのを見つめ直したかったからです。(ちなみに私の卒論テーマは「医療従事者が不治の病に罹患した場合ー医療者と患者の立場から医療を考えるー」でした)病気になって大学で専門的に臨床心理学を学んでよかったと思っています。
この本をパラ見した主人が「この内容ならいくみさんならもっと面白おかしく書けるんちゃうの。本書いて印税生活しようよ」なんてそそのかされました(苦笑)あまり目立ちたくないので今のところ縁故経由でしか原稿執筆はしない予定です…。っていうか印税を狙っているDr.ヒロシ侮れなし(笑)
最近たくさん膠原病の本が出てるんで、また読んだら読書感想文を書きますね。
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