膠原病の難病「全身性エリテマトーデス(略してSLE)」の新薬「サフネロー」の治療記録です。
興味のない方は飛ばして下さい。
「サフネロー」の治療に関する患者目線のSNSが少ないので私の治療記録を記載します。今後同じ治療を受ける方の参考になれば幸いです。
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「サフネローって薬があるんだけど」
膠原病免疫内科の主治医がパンフレットを渡してくれました。
開業して2年目か3年目の夏でした。
主人と串本辺りにドライブに行った時の帰り道に海からの強い照り返しと日光に当たったあとにめまいと猛烈なだるさで動けなくなりました。今考えるとそれが発症だったと思います。ちょうど開業の疲れやストレスが溜まった時期でした。
田辺で入院し診断されたのが「全身性エリテマトーデス(略してSLE)」。治療はステロイド30mg/dayからスタートしました。
SLEとは、自分の身体が自分自身を敵とみなしてあらゆる臓器を攻撃をする複雑な自己免疫疾患で「特定疾患難病」に指定されています。ステロイドや免疫抑制剤で暴走してしまった自己免疫を抑え込むしか治療法がありません。薬の加減が難しい病気です。
私は以前大学病院で勤務していた際に血液免疫内科の病棟で白血病や免疫疾患の患者の口腔管理を担当しており、症例を通じて医師や看護師のみなさんと仲良くなりました。紀南には免疫内科の専門医がおらずどうしたものかと思っていましたが、その時のご縁で地元大学病院の膠原病免疫内科に転院が決まりそれからはずっと神戸で治療を受けています。
治療の甲斐もあって順調にステロイドを減量し、専門医の元でステロイドと免疫抑制剤、プラケニルを組み合わせた処方で治りはしないものの寛解までもっていき10年ほど安定した状態を保っていました。
処方は1日あたりステロイド3mg、免疫調整剤プラケニル1錠、免疫抑制剤プログラフ2錠が維持量になり何年か続け、もう病気自体に慣れてしまい「しんどい」のが当たり前というか「こんなもんだろう」という感じで生活していました。
そんなある日、治療前のような異様な体のだるさや関節の痛みを感じるようになってきました。肩こりのひどい版のような筋肉痛や雨の日などの気圧が低い日に感じるような頭痛もひどくなってきて何となく不調を感じていました。
年齢的に更年期かなと婦人科に行ってみたものの血液検査ではまだ更年期ではないと否定。そうしているうちに顔周りや首周りにひどい発疹が出現、赤く爛れたようになり外に出るのが恥ずかしいほどになってきました。それと同時期に口腔内にも潰瘍ができ口周りにもヘルペス様の水疱がが出来始め痛みで食事もままならなくなりました。
皮膚症状は主治医と皮膚科の先生と相談して各種ステロイドの軟膏を塗布、口はまぁ一応専門家なので診療所にある口腔内用ステロイドを塗ったり菌感染しないよう口腔ケアをしたりでなんとかなりましたが、だるさや関節の痛みは増していき日常生活を送るにも家事が精いっぱいにな状況になってきました。
10数年ぶりの再燃でした。
SLEというのは不思議な病気で経過が長くなってくると血液検査ではハッキリした変化がないのに身体の症状だけが多種にわたって出てくることがあります。
今までは症状が再燃するとステロイドを増量して~また少し良くなったらステロイドを減量して~…という治療法しかなかったのが、2021年の11月末にアストラゼネカ株式会社から「サフネロー」という名のSLEの新薬が発売されました。
サフネローとは完全ヒト型モノクローナル抗体であり、I型インターフェロンα受容体のサブユニット1(IFNAR1)を標的とする新規の全身性エリテマトーデス(SLE)治療薬で、用量調整が不要な、4週間ごとに1回30分以上かけて投与する点滴静注製剤です。日本で承認を取得した最初かつ唯一のI型インターフェロン受容体拮抗薬であり、治療が困難で、多くの場合患者さんを消耗させる複雑かつ不均一な疾患であるSLEの治療における大きな進歩を意味します。アストラゼネガ社記事より抜粋
まるで「エヴァンゲリオン初号機を説明する赤木リツコ博士のセリフ」のようななんか小難しい説明ですが、今までSLEは出てしまった症状に対して炎症を抑える対処療法的な消炎としてのステロイドしか治療法がなかったのが、病気の根本原因である暴走したI型インターフェロンに直接働きかけて暴走を抑えることのできる生物製剤…なんだそうです、主治医の説明を聞いた私の解釈では。
難しいので詳しい作用機序はみなさんの主治医に聞いて下さい。
長期にわたってステロイドを使用してもなかなか寛解に至らず再燃したSLE患者に適応する唯一の薬なんだそうです。
「長いこと安定していたのに症状が出てきたね。最近出た新しい薬があるんだけど…。ただ1カ月に1回点滴必須になるので治療を始めたらずっと月一診療で通ってもらわないといけなくなる。とりあえず1クール12回受けてみてどうなるか、かな。遠いし治療が始まったら通院が大変だと思うのでご主人と相談してみて」と主治医にパンフレットを渡されました。
私は新しい治療は積極的に受けたいタイプですが、意外と超保守派の主人は新しい治療はあまり好まないタイプ。もっとメジャーになってからはじめても良いのでは?と少々反対されましたが、実際に身体が辛く私的にはそんな悠長なことを言っていられないので治療を受けることにしました。
サフネロー点滴開始当日。血液検査は痛みがひどい関節の炎症数値が跳ね上がっていましたが他はいつも通り。
私の免疫内科の主治医はよく話を聞いてくれて疾患や治療に対する説明もきちんと患者と向き合ってくれるタイプです。内科医は特にカルテ用のパソコンとにらめっこばかりでろくに患者の顔すら見ない方も多いのでありがたいことです。
「じゃあ今日から始めるけど、点滴1時間くらいかかるかな。即効性はないんだけど効く人には効くから。とにかくコレは感染しやすいから気をつけてね」と言われました。
外来化学療法室に移動して点滴を受けることに。人によっては入院して初回受けるそうですが、私は外来で。点滴をする前に熱や血圧・血中酸素濃度の測定。病院によってはバイタルモニター監視下で点滴をするそうです。
サフネローは生物製剤なのでちょっと特殊な点滴です。
生物製剤とは、一般的な化学的合成を行って生成された薬剤ではなく生体から作られた蛋白質(抗体)をもとにした薬剤です。バイアルに入っている薬を生理食塩水で解いて作るのですが、溶解する際に泡立てたり溶解した製剤を輸液バックに急速に混入させると中の蛋白が凝集して微粒子を作ってしまいます。
この微粒子が異物として免疫反応を起こしてしまい、生物製剤の効果を半減させてしまうのでインラインフィルターをつけて点滴をします。
生物製剤独特な点滴の組み方です。点滴の速度も速すぎると効果が半減するらしく滴下速度も看護師さんは合わせながら開始です。
私の通っている病院は古く狭いので処置室のベットは極細(苦笑)。そんなに太っていない私でも横たわるとギリギリで寝がえりはもちろん動くと転びそうな幅の狭いベットで点滴開始です。カーテンで仕切られていますが隣のベットは超至近距離です。
この量なら普通の点滴ならあっという間だなぁ、なんか大げさな点滴だなぁ…と思いつつ、退屈なので周りの処置や看護師の動きが気になります。
ここで処置をする患者さん達はみんなそれなりに重症な訳で。看護師さん同士が話している略語や内容も何となくわかってしまうのでみんな大変なんだなぁと感じつつ、自分もそんな患者さんの仲間入りなんだな…と複雑です。
薬液が入ってから何度も看護師が確認に来ます。私は薬剤が入って少しめまいというかクラクラしただけで大きな変化はありませんでした。
サフネロー終了後は50mlの生理食塩水を流して終了です。再度バイタルの確認です。
点滴終了後はアナフィラキシーショックの有無や体調変化の確認のため30分ほど休憩してから帰宅でした。
不思議なことに点滴をしてすぐにひどい肩こりのような筋肉の引っ張られるようなズキズキした鈍痛がすっと消えました。サフネローが急激に効くのかどうか分かりませんが不思議なことに肩こりがスッと消えました。
コレ、効くんじゃないの?と半信半疑でお会計に行くと、領収書も半信半疑の二度見でした。
サフネロー点滴静注 1瓶 9,633点
1点=10円です。
ハイプラーイス!!!(DoctorX の西田敏行さんがアキラさんに請求書をもらった時のリアクションで読んでください)
サフネローの点滴この1瓶で9万6千円也です。その他治療費や飲み薬代は別途かかっています。
私の治療代は「特定疾患難病公費」なので1カ月窓口支払い上限金額は2万円までなのですが、ビックリです。
これが毎月。あの点滴が10万円近くかぁと思いつつ会計をしました。病気になるとお金がかかるものです。
専門病院が自宅の近くの方ならこれですぐ帰ってゆっくり…でしょうが、専門医が近隣におらず遠征してきている私はこれから帰宅です。
在来線、特急くろしおを乗り継いでだいたい3時間かかります。帰りの電車の中で少しふらつきとめまいがしました。特急くろしおが横揺れが酷い列車なので余計に酔いました。
今までは8週間に1回(だいたい2カ月に1回)専門病院通院だったのが4週間に1回(1カ月1回)になります。
1カ月に1回、少なくとも1年間この治療を続けないといけないのかぁ…と改めて自分が難病なんだなぁと再確認しました。
サフネローは最近承認された新薬の上、SLEのみの特効薬。検索しても製薬会社の新薬発売のニュース記事か専門医レベルの疫学的情報ばかりで実際患者の立場での臨床使用に関するものは見つけられませんでした。
さらにこのようにTwitterやインスタ、闘病ブログなどSNSに情報を発信する方となると本当に限られていて、わずか数人「闘病記録」を書かれている方を見つけて本当に参考になりました。
サフネローは点滴後に頭痛がする、ふらつきがあるなど記載があり心構えが出来ました。副作用や効果などはひとそれぞれですが同じ病気で同じ治療を受けた方の言葉はとても心強いものです。
今後、SLEでサフネローの点滴を開始する方に対して何か少しでもお役に立てればと思い記録を残したいと思います。同じ病で闘病中の方、ぼちぼちがんばりましょうね。
次の記事は「サフネロー1回目、その後」(ちょっと大変だったので注意喚起で「その後」を特記します)と6月に下旬にサフネロー点滴の2回目があるのでまたまとめたいと思います。
ご参考になれば幸いです。